電脳筆写『 心超臨界 』

天才とは忍耐するためのより卓越した才能に他ならない
( ルクレール・ビュフォン )

対中対決戦略を説く「Y論文」――湯浅博さん

2020-06-26 | 04-歴史・文化・社会
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対中対決戦略を説く「Y理論」――湯浅博・東京特派員
【「湯浅博の世界読解」産経新聞 R02(2020).06.26 】

イニシャルで「YA」を名乗る英語論文の執筆者は、いったい何者なのか。日米関係に関心を持つ人々の間で、2カ月も前に米外交誌『アメリカン・インタレスト』に掲載された匿名論文が注目を集めている。同誌が執筆者を日本政府当局者であると明示し、論文の表題が「対中対決戦略の効用」と明快だからか。

興味深いのは、世界の識者に評判の悪いトランプ外交に対し、現役官僚とみられる執筆者が実に寛容なことだ。「トランプ外交はひどいが、対中関与政策のオバマ外交よりはマシ」と、日本を軸に現実主義的な外交論を展開している。

ちょうどトランプ大統領に解任されたジョン・ボルトン前大統領補佐官の回顧録が、差し止め要求を振り切って出回り、にわかに11月の大統領選の行方が気になり始めた。日本にとって「再選は国益より優先」と回顧録がいうトランプ再選は是か非か。オバマ政権時代のバイデン前副大統領の当選が日本の国益にかなうかという視点だ。

この論文は、中国を力で近隣国を脅迫する19世紀型の国家であると指摘し、これに対して米国は、オバマ前政権による曖昧な“21世紀型外交”に戻すべきではないと叱咤(しった)している。YA氏は日本がこれまで、中国の拡張主義的な危険性を米当局に繰り返し警告してきたと強調し、冷戦後の日米同盟は大陸に焦点を絞った対中同盟であるべきことを力説する。

仮にいま、中国をソ連に置き換え、イニシャルを「Y」と洒落(しゃれ)ていれば、米ソ冷戦の到来と対ソ封じ込めを訴えたジョージ・ケナンの「X」論文を連想させて面白い。モスクワから帰任した国務省のケナン政策企画局長が1947年、筆者Xとして外交誌に寄稿した衝撃的な論文だった。

◆トランプ政権前に戻りたいか?

さて、4月10日号の『アメリカン・インタレスト』に掲載のY論文は、日本の当局者が米国に向けて中国型全体主義の危険性を訴え、再びトランプ以前の楽観的な関与政策に戻るべきではないと主張する。

Y論文によると、日本はクリントン政権の甘い関与政策に反対はしなかったが、この路線によって中国が自由民主主義国になるとは決して信じてはいない。対中警戒を表明したブッシュ政権はともかく、次のオバマ政権は、中国に「責任ある利害関係者」になるよう期待する関与政策に逆戻りさせてしまった。案の定、2016年7月、オランダ・ハーグの仲裁裁判所が南シナ海を独り占めにする中国の「九段線」論にクロ判定を下すと、中国は「紙くず」と拒否した。その1カ月後には尖閣諸島に300隻近い漁船を送り込んできた。

そこで安倍晋三首相は同年11月、ニューヨークに飛び、次期大統領に決まったばかりのトランプ氏との異例の会談に臨んだ。両首脳は翌年2月には、日米同盟の強化によって北朝鮮への圧力を高め、インド太平洋戦略を構築する―ことを宣言にまとめ、中国に対する警告のシグナルを送った。

Y論文は従来の日本外交は「外圧」によって対処してきたが、いまは日本の考え方を巧みに反映させることが可能になったことを強調している。そのうえで、「実行はお粗末でも正しい戦略は、着実に実行される曖昧な戦略に勝る」と、中国と対峙(たいじ)するトランプ外交に軍配を上げる。

ちなみに日本の外交エリートは、「トランプに戦略はない」とY論文が気に入らないらしい。YA氏はそんな批判を想定し、バイデン候補も最近の外交誌のエッセーで「中国に対処する最も効果的な方法は、米国が同盟国やパートナー国との統合戦線を構築し、中国の悪辣(あくらつ)な行動に立ち向かうことである」と論じていると評価している。必要なのは、インド太平洋における米国の優位性と存在であって、バイデン政権とも協力可能であると強調する。

◆中国と民主主義国全面対決の様相

このY論文が指摘する中国分析と日米同盟の重要性に対しては、まったく異論がない。ただ、論文は「日本が主権と繁栄を維持する決意」を語っているが、どう責任を果たすのかという独自政策への言及がない。そこが曖昧だからこそ、執筆者が日本政府当局者であると推測できてしまうのも皮肉なことだ。

執筆が3月末時点であるためか、Y論文には中国が武漢ウイルスを拡散させ、国際社会の対中批判に過剰反応していることへの言及がない。論文が見通していた「中国の威圧的で不安定な行動」が、新型コロナ危機の拡散によって加速しているのが現状だろう。

Y論文を敷衍(ふえん)していえば、国際社会の批判に対する中国共産党の報復行動は異常である。モリソン豪首相がこの4月、新型ウイルスの発生源に関する国際調査を呼び掛けると、中国はすかさず豪産大麦に高関税をかけ、豪企業4社からの牛肉輸入を禁止した。

中国はさらに、カナダをはじめ、インド、ベトナム、モンゴルに対しても露骨な報復を行っている。日本に対しては、尖閣諸島周辺海域に公船を送り込み、奄美大島の接続水域を潜水艦に潜航させた。

米紙編集委員のグレッグ・イソップ氏は、2年前には米中対立だったものが、「中国と先進民主主義国との全面対決の様相」を帯びつつあるとみる。19世紀型の中華帝国主義と21世紀型の民主主義による価値観の衝突である。

◆自由主義国家群の結束固めに尽きる

米国とその同盟国に結束と備えがある限り、中国もやすやすとは乱暴狼藉(ろうぜき)を働くことができない。

だが、コロナ危機で疲弊した米国が、白人警察官による黒人暴行死事件をきっかけに格差社会の不満を爆発させてしまった。悪いことに、トランプ大統領はデモ鎮圧に軍投入の構えをみせ、現職や前国防長官、軍元幹部から一斉に反発を受けた。

米大統領と軍とのきしみは、中国を強気にさせ、周辺国への軍事力行使のきっかけを与えてしまう。国難に対する米国の強さは、大統領の下に結集する米国人気質にある。だが、トランプ発言は統合より分断に向かわせている。

Y論文につけ加えるなら、強権的な習近平政権には戦略的好機を与えず、自由主義国家群が結束を固めることに尽きるのだ。
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