主張

三つ巴の総統選 台湾の「民主主義」を示せ

記者会見する台湾総統選の民主進歩党(民進党)候補=台北(ロイター=共同)
記者会見する台湾総統選の民主進歩党(民進党)候補=台北(ロイター=共同)

来年1月13日に行われる台湾の総統選は24日、立候補の届け出が締め切られ約50日間の選挙戦に突入した。最大野党、中国国民党と第2野党、台湾民衆党の候補一本化協議は決裂した。与党、民主進歩党候補の頼清徳副総統が優位とされる。

これを受け、中国政府で台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室は「台湾は平和と戦争の選択に直面している」とコメントした。中国が台湾独立派とみなす民進党の頼氏が当選すれば「戦争」が起きると台湾の有権者を脅した形だ。選挙介入である。断じて許してはならない。

中国が野党候補一本化工作の黒幕との指摘もある。総統選は中台だけでなく、東アジアや日本の安全保障にも多大な影響を及ぼす重要な選挙だ。中国が介入しないように国際社会は注視する必要がある。

頼氏のほかに立候補を届け出たのは国民党の侯友宜・新北市長と民衆党の柯文哲主席で、各種世論調査の支持率では頼氏が4割弱で首位を走り、侯氏と柯氏が2割前後で追う展開だ。

そもそも、「政権交代」を唯一の旗印に候補を一本化しようとした国民党と民衆党に無理があった。民衆党は、国民党と民進党の二大政党に不満を持つ若者を中心に支持を広げてきた政党だ。トップダウンで進められた今回の候補一本化の動きに、支持者らが激しく反発したことが協議決裂の背景にある。

「民進党は台湾を戦争の最前線に引きずり込もうとしている」(侯氏)、「民進党は中国と戦いを求めている」(柯氏)と不安をあおるだけなら中国と同じだ。政策合意をないがしろにした有権者無視の言動と非難されても仕方あるまい。

民進党の頼氏も「次期総統選は民主主義か専制主義かを選択する選挙だ」と不安をあおる点で野党と変わらない。国民党の李登輝総統時代の1996年に初の総統直接選挙を実現させて以降、民主化路線を着実に歩んできた台湾には民主主義が根付いているのではなかったか。

ただし、中国の習近平政権が台湾の武力統一も視野に軍拡路線を進める中、台湾が民主主義と専制主義が対(たい)峙(じ)する最前線に立たされているのは事実だ。

だからこそ、3人の候補には活発な政策論争を戦わせることで健全な民主主義を世界に示してほしい。

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