日銀が「このタイミング」でマイナス金利を解除したホンネは? 中小企業の賃上げは出そろってないのに…

2024年3月19日 19時12分
 日銀は金融政策決定会合で、当座預金の一部にマイナス金利を適用するマイナス金利政策の解除を決めた。植田和男総裁は会合後の記者会見で「現時点の経済見通しを前提にすると、当面は緩和的な金融環境が継続する」と述べ、この先の追加的な金利の引き上げについては中小企業の動向などを含めて慎重に判断すると強調。緩和政策を続ける考えを示した。

◆見切り発車では…大手の賃上げが「重要な判断材料」に

 日銀はこれまで当座預金の一部について年0.1%の手数料を課してきた「マイナス金利」をやめ、政策金利にあたる「無担保コールレート翌日物」を0~0.1%程度に誘導することを決めた。金利水準は0.1ポイント引き上げられる。
 長期国債を大量に買い入れ、10年物国債金利を「ゼロ%程度」に抑え込む「長短金利操作(YCC)」も撤廃するが、金利の急騰を防ぐため、月約6兆円の長期国債の買い入れは続ける。一方、株式市場をゆがめるなどの懸念がある上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)の新規の買い入れは終える。大規模緩和は「その役割を果たした」として、今後は短期金利の誘導を通じた金融政策を行う。

金融政策決定会合を終え、記者会見する日銀の植田和男総裁

 日銀が今会合で政策の見直しに踏み切ったのは連合による春闘の一次集計で、大企業中心に高い賃上げ率となったことがある。植田氏は会見でこの結果を「重要な判断材料になった」と説明。大規模緩和が始まった当初から日銀が掲げてきた物価上昇率2%も22カ月にわたって達成。この先も安定的に実現することが「見通せる状況に至った」とした。

◆アメリカの利下げ前に利上げしておきたい?

 ただ、中小の春闘の結果を待たず利上げに踏み切った形。理由について植田氏は「中小のヒアリングを実施し、幅広い先から賃上げの計画があるという回答を得た」と説明するが、背景には、年内にも始まるとみられている米国の利下げ前に金融政策を正常化させたい事情もある。米国の利下げと日銀の利上げの時期が重なれば、コロナ後に拡大してきた日米の金利差が縮小に転じ、急激な円高によって輸出企業の業績が悪化する懸念があるためだ。
 一方で、日銀の緩和政策の影響で、22年以降は円安が急進し物価高が国民生活を苦しめてきた。元日銀審議委員で野村総合研究所の木内登英氏は「米国が利上げしているときに日銀が動けば円安や物価上昇がここまで進まなかった。もっと早く動くべきだった」と話した。

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