杉背さんの小説は単に昔から伝わる伝承を物語にするのではなく、新たな視点で創作されている。
例えば、江戸時代に浦賀で見つかったという怪魚"鳳そう魚"をモチーフにした「占う魚」では、鳳そう魚が主人公の絵師を現実と幻想のはざまへと導く。鳳そう魚は民俗学者・藤沢衛彦の著書『変態見世物史』で紹介されているが、それが真実なのかどうかはわからない。その虚実入り交じる存在が、虚と実の境を曖昧にさせる存在として描かれているのが面白い。
また小松が池に伝わる伝説を小説化した「泥の中」では、伝説のなかの主人公である「お松」ではなく、彼女をいじめていたとされる姑が主人公となっている。短い作品だがラストの思いがけない一言により、いじめていた者といじめられて者が同化してしまう。その瞬間に哀しい人間の性が描かれている。
他の短編も実在の土地が舞台となっており、作品によっては生々しく不気味で、作品によってはユーモラスであり、叙情性があり哀しい物語もある。
時代も現代もあれば、昔話もあり、新しく創作された現代の民話といったたたずまいがある。
いろんな土地の多くの人に読んでもらいたい作品です。
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