ハリと厚みを感じる声へと変貌
昨年のヘッドライナーを務めたのはBLACKPINK。彼女たちのプレッシャーはきっとものすごいことだったに違いない。そんな勝手な心配を冒頭一曲目「ANTIFRAGILE」で吹き飛ばしてくれた、コーチェラ・フェスティバル初参戦のLE SSERAFIMの5人。母国アメリカの地でステージを心から楽しむユンジンのパフォーマンスに心を掴まれつつも、度肝を抜かれたのは宮脇咲良だった。
音楽番組やほかのステージで披露してきた繊細で高音が耳に残るかわいいボーカルに対し、昨日のコーチェラは出だしからまるで別人。まさに覚醒。声に厚みがありお腹の奥底からリリックのひとつひとつが飛び出していくような印象だ。目つきも今までなくかっこよく、その鋭さも合わさって強烈なインパクトを残していく。ドープな低音が心地いいヒップホップベースの新曲「1-800-HOT & FUN」ではシンギングラップを披露し、「今後、ラップも聴きたい」と思わせるほどのこなれっぷり。ライブ特有のラフな外し方もこなれていて何度も聴きたくなる。
批判の先にあるヴォイス・コントロール=努力
宮脇咲良は過去いくつかのインタビューで「歌が下手だと言われる」と発言しており、都度それを自分なりに打破していく術を語っていた。とあるバラエティ番組で「でも、私は努力する才能はある」と言っており、今回のコーチェラでのパフォーマンスはその“努力”を見事実らせたハイライトなのではないだろうか。宮脇咲良のボーカルパートはほかのメンバーに比べて少ないことがあるけれど、今回はそんな限られた一瞬一瞬がきらめいていた。
生演奏のベースとドラムが鳴り響き始まった、デビュー曲の「FEARLES」(2022)。宮脇咲良の声は2022年よりもドラマティックになっている。綿密なボイストレーニングを重ねてきた当時よりも、生歌で挑む強烈なプレッシャーを受けるステージ上で過去の歌声を更新した彼女に惹かれる人はきっと多い。思いがけない“ヴォイス・コントロール術”を目の当たりにし、声に磨きをかけることができるという事実を教えてくれた SAKURAにしばらく刺激を受けてしまいそうだ。
Editor: Toru Mitani