“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。今回は、前回に引き続き、カラダの中で熱を生み出す仕組みを見ていきます。筋肉や脂肪組織が熱を出すのに関わっているのがUCPというタンパク質。近年の研究により、UCPの活性の違いにより「太りやすい体質かどうか」などがわかるようになってきました。
運動をしなくても熱を発生させるタンパク質
褐色脂肪組織や筋肉が熱を出すための仕組みに関わっているタンパク質が、10年ほど前に発見されました。熱に関する研究に大きな影響を与えたそれは、ミトコンドリア脱共役タンパク質(UCP)というものです。
少し専門的な説明をすると、UCPは細胞内のミトコンドリアの中に存在し、脂肪のエネルギーを分解する反応系とATP(アデノシン3リン酸)を合成するシステムとのつながりをカットしてしまうという特徴があります。すると何が起こるか。脂肪を分解してきたエネルギーが、ATPを作ることなく、熱になって逃げてしまいます。運動をしなくても、身体から熱が発生するのです。前回説明した「非震え熱産生」ですね。
褐色脂肪の中にあるUCPは、最初に見つかったのでUCP1<ワン>と呼ばれます。UCPの遺伝子には多型(遺伝子を構成しているDNAの個体差)があり、ヒトの場合、UCP1を問題なく作れる人と、作れない人とがいることもわかりました。しかも、作れない人が日本人では約20%もいるのです。UCP1が作れないとどうなるかというと、熱を作る能力が低くなる。つまり、低体温や冷え性といった症状になりやすいわけです。
また、熱を作れない分だけ全体のエネルギー生産も落ちてくるので、1日当たりの消費カロリーが100kcalほど少なくなります。たかが100kcalと思うかもしれませんが、10日なら1000kcal、365日なら36500kcalになります。36500kcalを体脂肪に換算すると5kgほどに相当します。つまり、同じ食事を1年間続け、同じように活動していた場合、UCP1を作れる人に比べて5kg太ってしまうということになる。ですから、UCP1は体質に関わるタンパク質であるともいえ、UCP1が作れない人は、いわゆる「太りやすい体質」ということになります。
現在は、肥満外来でUCP1を作れる遺伝子を持っているかどうかを調べてもらえるようです。もし、うまく作れない遺伝子のタイプだとわかった場合は、食生活を見直したり、運動の習慣をつけたりする必要があるかもしれません。
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- 熱産生の主役は筋肉の中にあった