主要オブジェクトストレージサプライヤーと製品の特徴オンプレミスオブジェクトストレージという選択【後編】

オブジェクトストレージを選ぶポイントとは何か。オブジェクトストレージに必須の要素とともに、主要サプライヤーとその製品の特徴を紹介する。

» 2019年12月04日 10時00分 公開
[Stephen PritchardComputer Weekly]

 前編(Computer Weekly日本語版 11月20日号掲載)では、ストレージ市場の新トレンドとして、既に始まっているオブジェクトストレージへの移行に加え、クラウドからオンプレミスへの回帰が見られる現状を紹介した。

 後編では、オブジェクトストレージの主要サプライヤーとその製品、そしてオブジェクトストレージの事例を紹介する。

オブジェクトストレージとクラウド

 組織がオブジェクトストレージを選ぶべきもう一つの理由は、クラウドとの互換性にある。クラウドストレージはほとんどがオブジェクトストレージなので、オンプレミスやプライベートクラウドでオブジェクト技術を利用すれば、ストレージロケーション間の切り替えが容易にはるはずだ。

 IHS Markitによると、2019年末までにコンバージドインフラの導入を計画している組織は66%、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)は56%、ハイブリッドクラウドストレージは66%だった。

 その大部分は、事実上の標準であるAmazon S3の採用やオンプレミスおよびハイブリッドストレージ用API、アプリケーションの幅の広がりによって可能になった。

 「Amazon Web Services、Microsoft Azure、Google Cloudを含む主要クラウドは全て、オブジェクト技術をベースとするストレージを採用しており、それがオブジェクトストレージ開発と革新の大きな原動力となっている」。Tectradeのイアン・リチャードソン氏はそう解説する。

 「現時点で足かせとなる要因の一つは、それぞれで独自に開発したプロトコルをオブジェクトストレージのインタフェースに使っていることだ」と同氏は言う。だが今やオンプレミスのAmazon S3は定着し、ネイティブあるいは翻訳ツール経由で「Azure Blob Storage」や「Google Cloud Storage」に対応するアプリケーションも増えている。

 そのおかげで企業は、データをオンプレミスからクラウドに移したり、再び元に戻したりすることができる。

オブジェクトストレージ市場

 IDCの2018年版「MarketScape」報告書は、オンプレミスオブジェクトストレージを手掛ける13社をリストアップし、ソフトウェア、ハードウェア、その両方、そして専門企業と総合エンタープライズサプライヤーに分類している。その一部を紹介しよう。

IBM

 「IBM Cloud Object Storage」はクラウドおよびオンプレミスシステムとしてソフトウェアまたはアプライアンスで利用できる。同社はポリシーベースのティアリングや99.99999999%の耐久性、実質的に無限のストレージをうたう。IBMはオブジェクトストレージをアーカイブ、バックアップと復旧、クラウドネイティブアプリケーションデータ用として宣伝しているが、AIとビッグデータ分析にも利用できる。IBMの技術は最大10GBのオブジェクトに対応できる。

NetApp

 NetAppはティアリングとクラウドインテグレーション用に「StorageGRID」を提供する。StorageGRIDはソフトウェア定義型のオブジェクトストレージで、プライベートクラウドとパブリッククラウドに対応する。アナリストは、特にNetAppとAmazon S3の連携性の良さに着目している。同社の互換アプライアンスの容量は48T〜720TBだ。

Cloudian

 Cloudianはオブジェクトストレージの「専業」ベンダーの1社で、同社の技術は最大で100PBからエクサバイト規模に対応できるとうたっている。顧客はアプライアンスを利用するか、自社サーバでソフトウェア定義ストレージを運用するかを選択できる。Cloudian製品をSeagate製品と連動させて、1.5PBの「HyperStore Xtreme」ノードを構築することもできる。これを組み合わせれば、標準的なラック1台で18PBのストレージを構成できる。

Dell EMC

 「Dell EMC ECS」はハードウェアベース製品で、標準的な12TBのHDDをベースにラックユニット当たり最大8.6PBを提供する。同社はファイルとHDFSを含むマルチプロトコルのサポートやAmazon S3との互換性を強調している。ECSは同社のスケールアウトNAS技術「Isilon」と併用できる。

Scality

 Scalityはオブジェクトストレージの専業ベンダーだ。Scality RINGはソフトウェア定義ストレージで、同社は導入スピード(1時間で導入可能としている)や、Amazon S3へのポイント&クリック型プロビジョニングに重点を置く。NFS v4、SMB、Linux FS(FUSE)をサポートし、最大100PBのデータに対応できると説明している。

オブジェクトストレージを使って犯罪に対抗

 英国の技術アウトソーシング企業Telentは、大量のデータを伴うミッションクリティカルシステムを幅広く運用している。その範囲は防衛から鉄道網、道路交通管理まで多岐にわたる。

 Telentは司法当局のためのアプリケーションもホスティングしている。一例として警察向けのデジタル証拠システムの提供がある。証拠には防犯カメラの映像、事情聴取のデジタルコピーなどが含まれる。警察官が体に装着したカメラやドローンなども利用することから、ストレージ需要は急激に伸びている。そうしたデータはサーバハードウェア「HPE Apollo」で稼働するScality RINGに保存される。

 「われわれは、警察に証拠のアップロードと検証、分析のためのプラットフォームを提供している。そうしたリソースは全てどこかに保存しなければならない。そのために使っているのがオブジェクトストレージだ。これは効率的な拡張が可能であり、ギガバイト当たりのコストはペタバイト級プロジェクトにとっては極めて重要だ。これは常時接続が可能であり、われわれは複数のデータセンターを横断して耐久性の高いScality RINGを使っている。バックアップする必要もない。そもそもペタバイト級のデータをバックアップすることは不可能だ」。上級ソリューションアーキテクトのマット・ラター氏はそう語る。

 このシステムの設計はカスタマイズされていることから、ブロックやファイルベースのアプリケーションをオブジェクトストレージと組み合わせることに伴う互換性問題は起きていない。

 「オブジェクトストレージには、ファイルシステムのような華々しさはない。だがAmazon S3接続は普及している。Amazon S3用に開発されるアプリケーションも増えている。顧客にも自分たちがオブジェクトストレージを使っていることが見えやすい」とラター氏は話す。

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