電車から乗客を降ろすということは、降りた乗客が他の列車に轢かれるという2次事故(三河島事故がこれ)を防ぐ為に、誘導要員の確保と配置、隣接線区の運転規制など乗客の安全確保や誘導体制を完全に整えてからでないとできません。
ですので、すぐには降ろせないのです。
また、一度降ろして(降りられて)しまうと、線路内に乗客が完全にいないことを確認してからでないと運転再開ができません。
故障は治って運転できるようになったけど、乗客が線路に降りてしまっているので運転再開が出来ない、という事態を避けるためにも、安易な乗客降車は選択しないようになっているのです。
今回のトラブルが起こったのは朝ラッシュの時間帯ですが、朝ラッシュというのは運転本数や乗客が1日で最も多く、従って社員もフル動員で余剰人員など無い状態ですから、誘導するための要員を確保するだけでも困難です。また、振り替え輸送で駅の案内要員も増員が必要とされていますから人集めはさらに困難さが増します。おそらく、支社勤務等の内勤組や保線等の裏方、近隣に住む非番者にも非常呼集がかかっているはずです。
あちこちに連絡しまくって集めた人員全員に無線を持たせるなど装備をさせ、それを配置計画(集めた人員の誰にどこにいってもらうか)に従って鶴見近隣の列車まで送り込み配置して、運転規制等の準備が全て整ったのが確認されて初めて乗客を降ろすことが可能になります。
確かに2時間以上というのは待たせ過ぎとは思えますが、朝ラッシュという非常に人不足の時間帯に3列車分の誘導要員をかき集めて現場に配置するのは1時間程度の時間では出来ません。
個人的な推測ですが、故障箇所の見極めと復旧作業、故障復旧・運転再開断念に約20分、必要な人員を算出し、動員可能な人をリストアップして連絡するなど人をかき集めるのに1時間、集めた人員に装備を施し、現場に配置するなど準備に1時間、という感じじゃないでしょうか?
ちなみに、今回のような時に、待ちきれなくなった誰かが一人ドアを開けて線路に降りてしまった場合どうなるかを書いておきます。
1.非常ドアコックを使ってドアを開けると、運転席のドア閉めランプが消灯すると共に、運転台のモニタにドア開扉のインジケーターが点灯し、ドアが開いたことを知らせます。
2.それを見た運転士もしくは車掌が即座に列車防護無線のスイッチを入れ、非常事態発生を知らせる防護無線を発報します。
3.防護無線を受信した近隣線区の列車は全て即時緊急停止します。駅が目前に近づいていても、問答無用で緊急停止です。今回の場合ですと、隣接の京浜東北線・東海道線はもちろんのこと、鶴見線や東海道貨物線、電波の届き具合によっては南武線や横浜線も緊急停止します。
4.発報した列車乗務員からの報告により、関係の薄い鶴見線や南武線、横浜線はすぐに運転再開を行なえますが、京浜東北線・東海道線・東海道貨物線については運転抑止が続行されます。
5.ドアが開いた=乗客が線路に降りた可能性がある、ということから、運転士や車掌による点検(=乗客探し)が開始されます。列車の下や物陰など、くまなく探します。場合によっては、近隣の駅から応援の駅員が来る事もあります。もちろん、近くに緊急停止した他の列車も動けませんし、乗っている乗客はカンヅメのままです。
6.降りた乗客がいれば保護・収容し、安全が完全に確保されたという現場からの報告を受けて、運転指令が運転抑止解除の指令を出します。これでようやく運転再開、とばっちりを食らった他線区の乗客もカンヅメ状態から開放に向かえます。
この間、どう短くても約30分、本当に降りた人がいれば1時間は確実に止まります。それも当該列車だけでなく、他の列車も巻き込んで、です。
たった一人の身勝手な行動が他線区にまで及び、多くの人に多大な迷惑を掛けることになりますから、待ちきれないからといってドアを開けたり線路に降りたりすることは絶対にしないで下さい(それが判っているからみんな我慢しておとなしくしているのです)。