シネマヴェーラ渋谷で「従軍慰安婦」を観ました。
「東映女優祭り 三角マークの女神たち」という特集を開催中。
監督:鷹森立一
脚本:石井輝男
原作:千田夏光「従軍慰安婦 声なき声 八万人の告発」
企画:太田浩児
助監督:澤井信一郎
撮影:飯村雅彦
照明:大野忠三郎
録音:内田陽造
音楽:津島利章
美術:前田博
編集:田中修
スチール:藤井善男
出演:中島ゆたか、緑魔子、叶優子、三原葉子、小松方正、室田日出夫、由利徹、たこ八郎
この映画の存在を知ったのは今年4月、シネマヴェーラ渋谷で行われた女優・中島ゆたかさんのトークショーからでした。
「従軍慰安婦」は上映するプリントが現存しないといわれていた幻の作品・・・
・・・のはずでした。
ところが、なんと今回、上映される事に!
しかも、ニュープリントで映像がキレイ!
昭和12年秋、北九州の貧村の娘達が1000円で銘酒屋の主人・金山(小松方正)に買い集められます。彼女達は家の為に売られたのでした。その中に秋子(中島ゆたか)もいました。
秋子には幼馴染の恋人・正夫(達純一)がいました。しかし、彼は北支に出征する事になっていました。
出征前に再会した秋子と正夫。束の間の逢瀬を楽しみます。
昭和13年春、多くの兵士達とともに秋子たち「従軍慰安婦」も中国大陸に送られます。
その中には病気持ちのふさ(緑魔子)もいました。
お国の為と信じて一日数十人からの相手をする慰安婦たち。
そして、戦争は激しく長期化していきます・・・。
昭和13年秋、慰安婦たちは更に前線へ送られます。
そこで再び、秋子は正夫に再会します‐
脚本が石井輝男・・・!?
「石井輝男」と言えば、カルト映画の帝王として有名ですね。特にエログロが得意。笑
つい石井輝男先生の脚本となるとエログロを連想してしまい、わけのわからない映画かと思ってしまいますが、本作はそうではないのです。実はかなり泣かせる映画なのです。
ユーモアな場面もあり、決して暗い気持ちにばかりさせる映画ではありません。時には観客を笑わせ、登場する慰安婦たちにはどこか明るさがあります。
そんな慰安婦たちの姿を通して戦争の残酷さや虚しさを描いている傑作でした。
もともとは石井輝男先生が監督するはずだったらしいのですが、何らかの事情で鷹森立一監督に変わったそうです。
様々な慰安婦たちが登場し、それぞれの悲しみや喜びが描かれています。
病に倒れる慰安婦・ふさ役の緑魔子さんは儚く、悲しい最期を遂げます。ふさが息を引き取る場面は必見です。
中島ゆたかさんが演じる秋子は戦場で恋人の正夫と再会します。秋子は正夫を求めていますが、多くの兵隊に抱かれている自分の哀れな姿を見られるのを恐れています。その気持ちが痛いほど観客に伝わってきます。
戦場で死んでいったのは男達だけではありません。お国の為と信じて、己の身体を捧げた女性達がいた事も忘れてはいけないと思います。
戦争とは何か・・・本作には強いメッセージ性が感じられます。
これは戦争で亡くなった人々への鎮魂歌(レクイエム)であり、生きている人間に対して語りかけている反戦映画ではないでしょうか。
これほどの傑作が今まで埋もれていた事が残念でなりません。
公開当時もあまり評価されず、いつしか観る事の出来ない幻の作品になっていました。
今回の上映を機会に本作が再評価される事を望んでいます。