関西空港が強靱化 台風21号被害から3年の教訓活かす

関西国際空港の滑走路やターミナルが浸水し、利用客ら約8千人が孤立した平成30年9月の台風21号の被害から、4日で3年を迎える。関空ではこの間、大規模な防災工事を進め、その主要工事はいよいよ今秋、完了する。関西の玄関口が機能不全に陥ることは二度とあってはならない。被害を教訓に、関空は3年間で「強靱(きょうじん)化」を進めてきた。

30年9月4日、関空島では最大瞬間風速58・1メートルを記録する猛烈な風が吹いた。高さ5メートルもの高波が護岸を越え、滑走路や第1ターミナル、地下の電源設備などが浸水した。さらに対岸と結ぶ連絡橋は、タンカーの衝突で通行不能となり、関空は孤立。空港としての機能を失った。

海上空港のもろさが露呈したことを受けて、関空を運営する関西エアポートはこの3年間、防災対策工事を急ピッチで進めてきた。

まずは島そのものへの浸水防止対策を図った。平成6年の開港以来、地盤沈下が進んでいた1期島を約6キロにわたって最大2・7メートルかさ上げした。越波が激しかった東側と南側の護岸のうち約4・5キロは、消波ブロック約3万9300個を積み上げた。関西エアの山谷(やまや)佳之社長は「これで21号規模の台風が来ても浸水をほぼ防ぐことができる」と語る。

波が護岸を越えることも想定する。第1ターミナルと、航空機に燃料を供給する給油地区を取り囲むように高さ約2メートルの防潮壁を建設した。担当者も「21号の2倍以上となる600万立方メートルの浸水があったとしてもターミナルを守ることができる」と説明する。

それでも万一、第1ターミナルが浸水した場合の備えもある。これまで地下に置いていた電源設備を地上に収納し、停電を防ぐ。3年前は、地下にあった電源設備が浸水したため停電が発生。取り残された利用客の不安は増し、さらに運航再開の遅れも招いたからだ。一方、ほかの設備が残る地下の入り口にも、浸水時に自動的に立ち上がる止水板を設置した。

今年10月末に消波ブロックの設置が終了すると、主要部分の工事が完成する。後は護岸かさ上げに伴う滑走路・誘導路のかさ上げを残すのみとなった。総事業費約541億円の防災工事は、来年秋頃に完成する。(牛島要平)

弱者優先の避難誘導、スマホ充電器など備蓄を拡充

台風21号で孤立した関空島では取り残された利用客がターミナルで一夜を明かした。非常食や飲料水、毛布などが配布されたが、停電で空調は止まり、携帯電話もほとんど通じなくなる状況に。翌日には、島を脱出するための連絡船やバスを待つ長蛇の列ができ、言葉が分からず立ちすくむ外国人もいた。

教訓を踏まえ、関西エアポートは令和元年、1万2千人が取り残される事態を想定した新しい事業継続計画(BCP)を策定した。障害や持病のある人、乳幼児や妊婦、高齢者などに優先順位を付けて避難させる。また、新型コロナウイルスの感染拡大も踏まえ、発熱など感染が疑われる利用客は一般客と別に誘導する。

備蓄品には宿泊用の寝袋、スマートフォンの充電器などを追加した。配布などの情報を空港内の約900台のモニターで4カ国語で発信するシステムも今年3月、全国で初めて導入している。

関西学院大・上村敏之教授(公共経済学)

災害により空港が長期間にわたり使えない場合、経済に大きな影響が出ることはいうまでもない。一方、空港が機能すれば、被災者を避難させ物資を運ぶことができる。その意味で空港を守ることは重要だ。3年間で関空の防災はかなり改善したと思われるが、次に台風21号を超えるような災害が生じても行動できるようにしなければならない。

日本大・轟朝幸教授(交通システム工学)

関空では、具体的な被害を想定する「災害イマジネーション」が欠如し、浸水を防ぐ対策に目が向かなかった。連絡橋も何らかの理由で機能不全になることがあるとの想像を働かせるべきだった。台風21号を教訓に災害対応を見直し、防災意識を高める取り組みを始めたことで、「災害イマジネーション」の能力はかなり向上してきたといえる。

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