蘇る「幻のキューピッド」 消したのは誰? フェルメール初期の傑作

ヨハネス・フェルメール「窓辺で手紙を読む女」(1657~59年頃、ドレスデン国立古典絵画館)の修復前(右)(Photo by Herbert Boswank 2015)と修復後(左)(Photo by Wolfgang Kreische) ©Gemäldegalerie Alte Meister,Staatliche Kunstsammlungen Dresden
ヨハネス・フェルメール「窓辺で手紙を読む女」(1657~59年頃、ドレスデン国立古典絵画館)の修復前(右)(Photo by Herbert Boswank 2015)と修復後(左)(Photo by Wolfgang Kreische) ©Gemäldegalerie Alte Meister,Staatliche Kunstsammlungen Dresden

幻のキューピッド、現る-。修復が完了した17世紀オランダの画家、ヨハネス・フェルメール(1632~75年)の「窓辺で手紙を読む女」(1657~59年頃)。所蔵するドイツのドレスデン国立古典絵画館が9日の記者会見で正式に公開したが、そもそも誰が何の目的でキューピッドの絵を消したのかは謎のままだ。

現存するのは35点前後と寡作(かさく)で知られるフェルメールの画業において、同作は25~27歳頃に描いた初期の傑作。左の窓から差し込む光、室内にたたずむ女性というおなじみのスタイルが早くも現れている。42年前のX線調査で壁にキューピッドの画中画が描かれていたことはわかっていたが、あえて画家自身が上塗りで消したと考えられてきた。

来年1月開幕の「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」を担当する東京都美術館の高城靖之学芸員は、今回の修復により「キューピッドが象徴する『愛』と女性が読む手紙の関係-つまりラブレターであることを視覚的に表現しようという画家の意図が明白になった」と語る。ただ、修復前の広い壁の余白が、多くの人がフェルメール作品に感じる「静けさ」をもたらしていた面もあり、「印象が変わって見えるかもしれませんね」。

今回の修復調査で上塗りされたのは絵画完成から数十年後、少なくともフェルメールの死後と判明した。一体、誰が何のために改変したのか。同作品の最初期の来歴はわかっていないが、18世紀前半にはフランスにあり、1742年にドレスデンのザクセン公がパリで美術品数十点を購入した際、無償で付いてきたという。その際、既に画中画は消えていたとみられ、当初レンブラント作と認識されていた。

ドレスデン国立古典絵画館の専門家らは一つの仮説として、「当時フェルメールはあまり知名度がなく、(人気のあった)レンブラント風に見せるために上塗りしたのでは」とみる。高城学芸員も「画中画の部分の保存状況は良いので、劣化を覆い隠したのではなく、流行の変化など美的な判断により手を加えたのだろう」と指摘する。

もともとフェルメールはモチーフを幾度も描き直すことで知られる。「今後フェルメールの他の作品についても、画面に修正を加えたのが画家本人か否かの調査が進むのではないか」と高城学芸員は話している。(黒沢綾子)

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