小湊鉄道(千葉県市原市~大多喜町)…郷愁乗せコトコト走る
完了しました
「今も目に浮かぶのは、田園地帯を小湊鉄道の列車がコトコト走る風景です」。昔を懐かしむ千葉県市原市の女性からの投稿を読み、乗ってみようと思い立った。

雲が広がる穏やかな午前、緑色の車両で始発の五井駅を出発。昔ながらの4人がけのボックス席に座ると、車窓から田植え機が水田を往復するのが見える。苗を植えたばかりの水田は雲や民家の屋根を映し、キジの親子が寄り添っていた。

「都心から近く、沿線に咲くアジサイや蛍の飛ぶ様子など、豊かな自然を楽しめるのが魅力の一つ」と語るのは、車掌の橋本

30分ほどで上総牛久駅に到着。大正期に建てられた同駅舎など22施設は、小湊鉄道設立100年の2017年、国の登録有形文化財となった。ファンに愛されている赤とクリーム色のツートンカラーの車両が入線すると、長倉国男駅長(75)は運転席に向かい、運転士からリング状のものを受け取った。「タブレット」と呼ばれる通行手形だ。
直径約30センチの金属製の輪を革で覆っており、布で補強するほど使い込まれている。路線内に2か所ある単線区間で衝突事故が起きないよう、タブレットを持った運転士の列車だけ運行できる仕組みだ。今もタブレットを使うのは長良川鉄道(岐阜県)、津軽鉄道(青森県)など数少ない。
動き出した列車の最後尾から、車掌が長倉駅長に「お疲れさまでした」と笑顔で声を掛けた。20歳から55年にわたり運行を見守ってきた駅長は、列車が見えなくなるまで指さし確認を続けた。「

メモ 運行会社は1917年設立。25年の開業から来年で100年を迎える。28年に五井駅―上総中野駅間の全線(39.1キロ)が開通。社名は小湊(千葉県鴨川市)まで建設予定だったことに由来する。
問い合わせ
小湊鉄道鉄道部(0436・21・6771、平日午前9時~午後6時)
記者のお気に入り…“SL印”どら焼き

上総牛久駅から徒歩5分ほどのところに和菓子店「三河屋」がある。約80年前に創業した老舗で、店主の串田浩一さん(54)は「小湊鉄道と歩んできた店」と話す。毎日午前8時から営業しており、乗降客が立ち寄る。
観光列車「房総里山トロッコ」(9月末まで運休予定)にちなみ、令和に入り「里山トロッコどら焼き」を販売してきた。皮に「里山トロッコ」の文字と星形の煙を吐くSLが焼き印されている。串田さんは「製造を始めた後で小湊鉄道の社長の承諾を得た」と笑う。北海道産小豆を使用したあんを蜂蜜入りの皮が包む。ホットケーキのようにふんわりしつつ弾力があり、甘さは控えめ。1個150円。(奥)