一聞百見

「ゴミばーっかり作ってます」88歳 現代美術作家・三島喜美代さん

「アナザーエナジー展」のオープニングで、作品を背景にポーズをとる三島喜美代さん=東京都港区の森美術館(本人提供)
「アナザーエナジー展」のオープニングで、作品を背景にポーズをとる三島喜美代さん=東京都港区の森美術館(本人提供)


世界各地で創作活動を続ける70代以上の女性アーティスト16人を取り上げた展覧会「アナザーエナジー展」が東京・六本木の森美術館で開かれている(9月26日まで)。その会場で目を見張るようなインスタレーションを展開しているのが三島喜美代さん(88)だ。大きなドラム缶からゴミのようにあふれ出るのは、くしゃくしゃになった大量の新聞紙。しかし、よーく見ると、それはみんな陶器でできた三島さんの作品。「わたし、ゴミばーっかり作ってます」という大阪・十三のおばあちゃん作家に、とことん聞いた。

氾濫する情報、陶器で表現

阪急十三駅からしばらく歩いた住宅街に、三島さんのアトリエは普通の民家のような風貌をして建っている。一歩入ると、真ん中には作業台や延べ棒があり、いつでも仕事にとりかかれるようになっている。ちょっとこの部屋の雰囲気が懐かしい。

「仕事してると、痛みを忘れるんですわ」。股関節を痛めたとうかがったのは昨年の秋。さらに骨髄にも問題を抱え、かなりきつい痛みと闘い続けながら、4月22日に開幕したアナザーエナジー展に向けて2カ月前から作品制作に没頭してきた。結局、毎日毎日、新聞を転写して焼いた陶器の作品数は130枚にも及んだ。

「最後までやらんと、という一心。オープンの日は足が痛くて、つえついて(会場に)行ったんです。でも、仕上げないと悔しいんですわ。足(の痛み)はリハビリで戻りますけど、この展覧会はこの場かぎりやから」。ハードな仕事の代償は大きかったが、だからこそ彼女の仕事に対する誠意と集中力には、しびれるようなかっこよさがある。

その130枚の作品には、日本語だけでなく、英語、フランス語、中国語などさまざまな国の紙面が転写されていて、転がったドラム缶のようにさびたタンクからまるで洪水のように流れ出てきている。

「新聞は海外に行ったとき持って帰ったもので、タンクは15年ほど前に買ったもの。タンクのほうは、ただおもしろいなと思って買って、土岐市(岐阜県)のアトリエに置いておいたんです。でも、運ぶのにたいへん高くつきました。手伝いの運び賃がタンクと同じくらいしましたわ」

「ゴミばかり作っている」と笑う三島喜美代さん=大阪市淀川区(永田直也撮影)
「ゴミばかり作っている」と笑う三島喜美代さん=大阪市淀川区(永田直也撮影)

こんなふうに、いろいろなものを目的もなく買い込んでは、200坪はあるという土岐のアトリエの庭に運び込む。近所迷惑になるのではないか、と思われるほど「ゴミためみたいに置いてる」のだそうだ。「ゴミばかり作っている」という三島さんが、ゴミの保存・収集もしているというのだから、またおかしい。

記者が「三島喜美代」という人の名前に初めて出合ったのは、小学館が発行した「現代日本の陶芸家と作品 西部編」という本で、もう20年あまり前のこと。そこには「日常的な文脈を離れモノのもつ強さによって表現する現代陶芸の地平を広げる試み」というコピーとともに、若い三島さんの顔と、5500個にも及ぶレンガ状のものに一個一個文字を転写した作品「コピー86―B」の写真が掲載されていた。

その本を見せると「ああ、ほんまやね。でも、わたし、陶芸家という意識はないんですわ。わたしを入れないとおもしろくないから陶芸家の(本の)なかに入れられたんやろね」。あくまでも美術作家なのである。もともと、「情報」というものへの関心が強く、新聞紙を使ってコラージュを作ったりしていたのだが、ものたりなさを感じたのだという。「新聞を紙から陶器に変えたら、情報にたいする危機感や不安感が表現できると思ったんですわ」

落としたら砕ける陶器の緊張感、そして立体としての存在感。キャンバスを相手に創作してきた三島さんは1970年代初頭から、氾濫する情報やゴミを陶器で再現する作品に挑んだのである。

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