聞き手:長谷川幸洋 東京新聞論説委員
―最近、海外に出て行く日本企業が増えました。日本経済の先行きに悲観していることの表れかと思われますが、この動きをどう見ておられますか。
斉藤 悲観して出て行くというよりも、このままでは食べられなくなるという危機感が広がっていると見たほうがいいと思いますね。
周知のように、日本企業は厳しい国際競争を強いられています。勝ち抜くために人件費が高い日本から、アジアへ進出するわけです。そのアジアでは、とくに中国、インド、ベトナム、インドネシアなどの教育水準がものすごく高くなっています。
そのうえ、これらの国々の若者は非常に勉強熱心でよく働く。当然、企業としては、こういう労働者を雇ったほうが利益も上がるわけです。
日本国内でも韓国人や中国人を採用する企業が増えています。
日本の新入社員と一緒に社員教育をやったら、成績優秀でやる気にあふれているのは今や韓国人や中国人なんですよ。それなら、いっそ韓国や中国で生産しようと企業が考えるのも当然です。
―日本の労働者は優秀だと思っていたら、とんでもないと。
斉藤 それにアジア市場で儲けるなら、日本国内よりも消費地で生産したほうが、原料の輸送コストその他を考えると有利です。
しかも韓国から輸出すれば、いろいろな国とFTA(自由貿易協定)を結んでいるから、税金がかからない。製造業の海外流出は、もはや必然的というべきでしょう。つまり、資源を日本国内に運び、製品化して付加価値をつけ、輸出して儲けるというビジネスモデルはもう過去のものになってしまったといえます。
アジアの中心ではなくなった
―私たちが教科書でならった日本企業のビジネスモデルはとっくに崩壊しているわけですか。アジアの金融の中心も、日本ではなくなっているようですね。
斉藤 かつては圧倒的に日本だったわけです。香港市場など、東証の出来高や時価総額と比べて数分の一でした。それが今では、香港やシンガポールが東京を逆転してしまった。当然、人も資本も東京から香港、シンガポールへと移っています。
事実、欧米の証券会社は、かつて日本株アナリストを数多く東京に置いていましたが、最近はどんどん減らしています。そしてアナリストが増えているのが、香港やシンガポールです。
これは日本の証券市場にとっては由々しきことで、一般の人の目には見えませんが、ボディブローのように日本経済にはじわじわと効くんですよ。
―にもかかわらず、今なお多くの日本人は東京がアジアの中心だと思い込もうとしている。
斉藤 自国に対する誇りは大切ですが、精神論だけではどうにもならない現実があります。戦前と同じような精神論にしがみついても、戦前と同じ失敗を繰り返すだけだと思いますね。