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よろづ天道まかせで

絶て貴重すべきの理なし

米国は経済危機への対応でじゃかすかドルを刷っている。いきおい、インフレやドル暴落を懸念する声がでる。経済危機に関して悲観論をブツ筋にはゴールドを扱う業者さんも目に付く。で、ゴールドの人気が高まり昨年は一時期、オンス当たり1000ドルを超える相場もあった。

そんなご時世、佐藤信淵の『経済要録』でも読んでおくべきか。

黄金は諸金属の君長にして、万物の主宰なり、何かんとなれば、凡そ天地の間なる群品の価は、皆黄金を以て其貴賤軽重の等級を定めたる者なり、古人銭を以て万物の主とし、或は皮幣を主とせし論もあれども、未だ天地の神意を盡すに足らず、嗚呼万物を運動し、群生を役使すること、その威徳の黄金より神霊なるものあらん哉、佛も藁蒭(わらつと)の中にあれば人も亦尊敬せず、必ず黄金の室内に安置するを俟て、而して後に万民嗟歎して此れを礼拝す、然れども亦議すべきことの無きにしもあらず、其仔細とは、此黄金の性質を審かにするに、人類の性命を保養して、天年を全するの事に於ては、信とに無用の物にして絶て貴重すべきの理なし、若し夫れ虚華の金飾を廃し、通用の金幣を止るものならば、黄金なしと雖も、人世に傷害あることなし、又鉄は人世一日にてもなくては叶はざる物なれども、恆に極めて多き物なるを以て、人皆其功徳の大なる知らず、・・・

信淵には貨幣に関する金属主義者と一見、見間違われる論もあるが、実は人世の視点よりみて、その無きを以てしてもなんらの傷害なしとしている点は注目されてよいと考えている。黄金を投資の対象とするのは、そう望む者にとってはよいだろうが、「群生を役使」し、経済を回転させる点でみて、「通用の金幣を止るものならば、黄金なしと雖も、人世に傷害あることなし」としているわけで、その貨幣論は興味深い。