不壊の槍は折られましたが、何か?

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限りなき夏/クリストファー・プリースト

限りなき夏 (未来の文学)

限りなき夏 (未来の文学)

 ジーン・ウルフに代表されるように、娯楽小説と評価され得るジャンル内でも、作品内でわざと全てを語らず、何らかの要素を読み手の解釈または想像に委ねる作家が存在する。作品には曖昧模糊とした余白が出て来るわけだが、筆致がふくよかな場合、その余白からえもいわれぬエモーションが立ち上がることがある。プリーストの諸作はその最たるもので、作品の勘所では絶妙な感傷をまとう。しかも読みやすいのが素晴らしい。
 この『限りなき夏』は8編の短編を収録している。いずれもプリーストの本領が発揮されており、実に楽しく、同時に実に味わい深い。愛をテーマにした作品が多いため、あざとくならない範囲での感傷性が、物語に潤いを与えていることにも注目したい。以下各編にコメントするが、いずれにせよ、短編集『限りなき夏』は傑作揃いである。基本的には読みやすいので、広く、そして強くおすすめしたい。

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