情報処理推進機構(IPA)のソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)は2011年4月7日、アジャイル型開発プロジェクトをITベンダーに発注する際の契約書のひな型を公開した。「アジャイル開発に注目が集まるものの採用が進まない障壁の一つが、適した契約書のひな型がなかったこと。日本の大手ベンダーでも策定していなかった」(IPA/SECの山下博之 エンタプライズ系プロジェクトプロジェクトリーダー)。アジャイル開発は1週間から1カ月といった期間での開発(イテレーション)を繰り返しシステムを完成させる手法。

 契約書は2種類ある。一つは「基本/個別契約モデル」と呼ぶもの。プロジェクト全体で開発を委託する基本契約を締結した後、イテレーションごとに個別の契約を結ぶモデルである。基本契約は法的拘束力はなく、個別契約に共通する事項を定める。個別契約はイテレーションで開発する機能が定まっていない場合は準委任で契約し、確定している場合は請負契約とする。

 もう一つは「組合モデル」と呼ぶもの。建設業におけるJV(ジョイントベンチャー)の概念をアジャイル開発に流用しようとする発想から生まれたモデルだ。ユーザー企業が費用を、ITベンダーが開発要員を出す、民法上の組合(任意組合)を発足させ、一つのシステムを開発させることを目的にした共同事業(共同作業)契約を締結する。「ユーザー企業とベンダー企業の信頼関係が強い場合に適したモデル」(山下プロジェクトリーダー)。

 策定にはアジャイル開発を実践するユーザー企業やITベンダー、有識者に加え、受託開発の契約書のひな型として有名な「モデル契約書」を経済産業省で主管するメンバーも携わった。現在は草案だが、SECは今後の実用化に向けて、実際のアジャイル開発に草案の契約書を適用することでブラッシュアップする。アジャイル型の契約書をモデル契約書に盛り込むことも経済産業省に働きかけるという。

 今回のアジャイル開発向け契約書は、SEC内に設置された「非ウォーターフォール型開発ワーキンググループ」が2010年8月から活動してきた成果報告書の一部である。同報告書は、経営層にアジャイル開発の必要性を説く章や、アジャイル開発に必要なスキルとそのスキルを備えた人材の具体的育成方法を紹介する章などから成る。

■変更履歴
第4段落の今後の活動内容と、第5段枠の2010年の活動開始時期が誤っていました。お 詫びして訂正します。本文は修正済みです。[2011/04/11 18:00]