出版社からのコメント
Gainer(ゲイナー)はIAMAS(情報科学芸術大学院大学/国際情報科学芸術アカデミー)の小林茂氏らによって進められている、オープンソースI/Oモジュール。ユーザーインタフェースやメディアインスタレーションのための環境で、Gainerを利用することにより、センサーやアクチュエータをPCに接続し、Flash、Max/MSP、Processingといった幅広いプログラミング環境から制御できる。
ソフトウェア的な面だけでなく、電子回路を使ってものを作り上げる、プログラミングと電子工作を組み合わせたこの開発環境は、フィジカルコンピューティングとして注目を集めている。
本書は、その開発チームによる初のGainer解説本。チュートリアルから作品紹介まで、現在のGainerを総括する一冊。
著者からのコメント
この原稿を書いている現在、多くの人が携帯電話、カーナビ、携帯型メディアプレーヤー( iPodなど)、ゲーム機といった高度な情報機器を日々の生活の中で利用しています。ある意味で、Mark Weiserがかつて唱えたユビキタスコンピューティングはすでに実現しているといえるのかもしれません。
果たして、一体どれだけの人がデバイスの中身がどうなっているのかを理解しているでしょうか。もちろん、こうしたデバイスが生活の中に溶け込んでいく時、その中で何が起きているかが意識されるようでは失敗です。たとえ何十人、何百人というエンジニアが参加し、数百万行ものプログラムや超高密度の半導体部品から構成されていたとしても、それは利用者にとっては関係のない話です。しかし、デザイナー、アーティスト、エンジニアといった、さまざまな形でものを作り出していく人々にとって、こうしたデバイスを「単なる便利なブラックボックス」としてとらえてしまうのはとても危険なことです。
特に、日々の作業でかなりの人が利用していると思われるパソコンは、厄介なデバイスです。使いこなすまでには時間がかかりますし、長く使ううちに調子が悪くなることも多々あります。そうした時、大昔の馬車のような単純な構造であれば、利用者が自分で修理することも可能です。しかし、高度に複雑化したソフトウェアとハードウェアの集合体であるこうしたデバイスは、たとえプロのエンジニアであっても一人ではほとんど手が出せない存在になってしまいました。その結果、時にそうしたデバイスは生活の中でストレスを生み出す原因にすらなるのです。また、普段そうした道具を使って何かを作り続けていると、いつの間にかパソコンの制限の中だけでものを考えるようになってしまう危険性があります。
これに対して、絵の具と紙を使って絵を描いたり、木を切ったり削ったり接着したりして何かを作るという作業では、こうしたデバイスを扱うときのようなストレスは感じないという人が多いと思います。これはなぜでしょうか? 思い通りのものを作るためには、地道な努力が必要で、かなり大変なことのはずです。しかし、「自分の手で触れて感じることができる」というのは大きな違いで、中身を理解できないデバイスよりもずっと身近に感じることができるのです。それならば、コンピュータについても(完全に隅々までではないにしても)感じて理解できるようになれば、かなり見え方が変わってくるのではないでしょうか。
この本では、「フィジカルコンピューティング」をキーワードに、Gainerとブレッドボードなどを組み合わせて、実際に触って動かしながらものづくりをしていくための方法を紹介しています。チュートリアルでは順を追って説明していますが、どんなことができるのか知りたい場合には、クックブック(料理本という意味です)や作品紹介から眺めてみることをおすすめします。この本を読み終わったとき、身の回りにある世界が少し違って見えてくるようなことがあれば幸いです。
2007 年10月
+GAINER 著者代表
小林茂