この記事を読み始めた人のほとんどが、おそらく最後まで読まないだろう、とビジネス・テクノロジーライターのNick Carrさんは言い、「The New York Times」には、ハイスピードのテクノロジーに慣れると、アナログなものに対して短気になったり、忘れっぽくなったりするという記事(英文)があります。

シンプルな作業にも集中できなくなってどうしたらいいのか? といった、相談(英文)もあれば、Googleの検索傾向(英文)からは、たくさんの人が集中する方法を模索していることがわかります。

GTD』を代表とした生産性向上本には、確かにたくさんのテクニックが載っていますが、うまくいくかどうかは、私たちが継続的にやっていけるかにかかっています。なるほど、と思って本を読んでも、数週間後には、元の生活に戻ってしまう人が多いのではないでしょうか。

 では、なぜそうなってしまうかというと、それは、私たちが情報を整理することに躍起になるからです。気が散るのを防ぎたいのなら、情報整理力を鍛えるのではなく、集中力を鍛えましょう。長い時間集中力を保てるようにするのは、マラソンのトレーニングをするようなものです。結果を出すには一に練習、二に練習ですよね。Twitterのせいで気が短くなった、注意力が散漫になったと主張するのは、シューズがないからマラソンは走れない、と言っているようなものです。

Neuroplasticityという言葉があります。これは神経の柔軟性を指します。私たちの脳は、この性質があるおかげで、新しい経験をすると時間をかけて変化し、慣れることができるのです。興味深い例(英文)として、ロンドンのタクシー運転手の海馬が、平均よりも発達しているというものが挙げられます。海馬は記憶を司る脳の器官なので、ロンドンの地図が頭に入っている運転手の海馬は発達し、大きくなったのですね。

脳も身体の一部なので、ダイエットやエクササイズなどをして鍛えると、それなりの成果が表れるものです。とりかかりやすいところでは『Inbox Zero』を使ったり、ミーティングの数を減らしたり、一回のミーティングの時間を短くしたり、という「ダイエット」を思いつくかもしれませんね。でも、これは一時的なもので、せっかく持っている、あなたの脳の柔軟性を活用するものにはなりません。集中力が長く続かないからミーティングを短くするというのは、集中力を長くするトレーニングにはならないからです。

では、いったいどうすればいいのでしょうか。一つ提案したいのは、タイマーを使う方法です。例えば『Pomodoro』というアプリを使い、まずはタイマーを10分に設定します。10分仕事をしたら、2分のブレイクです。このリズムに慣れてきたら、10分を少しずつ長くしていきます(ブレイク2分は、しばらくそのままです)。元記事を書いたClay Johnsonさんは、今のところ、10分を35分までのばすことに成功したそうです。いきなりフルマラソンを走るのではなく、少しずつ距離をのばしていくのに似ていますね。

ここから先は、その他見直した方がいいポイントです。

■セカンドモニターは使わない

デュアルモニターで作業すると、一度にたくさんの量を処理できて生産性があがる、というのはもしかしたら間違っているのかもしれません。デュアルモニターで生産性が上がるのを裏付けるようなリサーチを探したところ、ユタ大学がおこなった研究を見つけたのですが、NECがスポンサーになっている(英文)ので、この研究結果は怪しいものです。実際に、セカンドモニターを10年使っていたJohnsonさんの経験によると、生産性が上がるというよりは、気が散ってしまう方が大きいと感じるそうです。

■OS Xで『Spaces』をセットアップ

『Spaces』は、OS Xのバーチャルデスクトップソフトウェアです。これは、セカンドモニターの代わりになりそうですよ。Spacesにメール、twitterや、閲覧していたブラウザを入れておけば、セカンドモニターで、常に目の前に表示されているのと違って、ちらちら目に入らないので、作業に集中しやすくなります。OS X以外を使っている場合は、「おすすめバーチャルデスクトップマネジャー5選(動画解説付き)」を、参考にしてください。

■マウスをオフにする

編集作業をするには、マウスがあった方が効率はいいですが、コードや文章を書く場合は、マウスを使わない方が、生産性はあがるかもしれません。マウスをつかむと、ついウェブを閲覧したりしてしまいませんか? 目の前の画面の作業に集中するためには、マウスがない方がよさそうです。ウインドウをマウスなしで動かすには、こちら(その1その2)ツールが便利ですよ。

■先を見越したルーティンを作成

2分間のブレイクは、次のタスクへの準備に使います。今のタスクが終わっていたら、いらないウインドウやタブを閉じ、次のタスクに必要なセットアップをしておきます。大事なことは、準備をせずに次のタスクにとりかからない、ということです。でも、タスクにとりかかる環境を整えるには1、2分で十分です。そして、その日のタスクが終業したら、すべてのウインドウを閉じます。

■開くタブの数を制限

Chromeの拡張機能に「No More Tabs」があります。開けるタブの数は、デフォルトで5つになっていて、6つ目を開こうとすると、古いタブから閉じてしまいます。よく考えてみると、そんなにタブを開いておく必要はないのかもしれませんね。余計なページを開いておいて、集中力が削がれるのを防ぐために、タブの数を制限するのは一つの方法かもしれません。

■Johnsonさんの仕事場

元記事を書いたClay Johnsonさんは、家で仕事をしているので、誘惑がいっぱいという環境です。彼が試している一つの方法は、ノイズを除去するヘッドフォンをつけて、歌詞がついていない音楽を聞くことです。

無音よりも、少しだけ音がある方が、集中できるのだそうです。今のところ、彼は座って作業をしていますが、早死にしたくない(英文)ので、立ち机に替えようかと検討中とのこと。また、机回りにはナッツや飲み物を置いていて、食べ物を探しに歩き回らなくてもいいようにしています。それから、ミーティングは午後に入れると、午前中にまとまった時間を、自分の作業に費やすことができますよ。

■まとめ

エクササイズと同じように、どのタイプのワークアウトが適しているかは、その人によります。たとえば、Johnsonさんは10分作業、2分ブレイク、からスタートする「インターバルトレーニング」が向いていると感じています。この記事を書くためにリサーチをし、実際に書くという作業を合わせて、70分かかったそうですが、トレーニング前なら、この量を書くのに半日かかっていたとのこと。

ここで大事なことは、作業時間が短くてすむということだけでなく、早く終わったために生まれた時間で、長めの参考記事や、研究論文を読むことができるという利点です。このように、今まで、そんなことする時間はないと追いやっていたものに、時間を使うことができるようになるのです。

最後に、注意力に問題がある人へのアドバイスをまとめると、

  1. 限界よりも、やや少ない量のタスクを設定する。
  2. 少しずつ自分の限界を引き上げていく。
  3. いきなりフルマラソンは走れません。徐々にペースを上げていきましょう。

あなたの脳は、あなたの身体と同じで、あなたが課したトレーニングの結果そのものが表れるものです。集中力トレーニングも、筋力トレーニングなどと一緒で、習慣づけるのには時間がかかるものです。が、いったん習慣化すれば、結果がついてくるものですよ。

How to Focus [InfoVegan]

Clay Johnson(原文/訳:山内純子)