フォーマット戦争の舞台裏で何が起こったのか

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    フォーマット戦争の舞台裏で何が起こったのか

    「フォーマット戦争はBlu-rayの勝利に終わった」 ― みんなそう言ってますね。

    HD-DVD派の米Gizmodoも渋々負けを認めざるをえないようです。東芝とユニバーサルに行った最近の取材で、HD-DVD軍も戦場から撤退する用意があるのかも…との印象を強くしました。

    CESではマイクロソフトが「HD DVDは東芝が打ち切ると言えば終わる」との見解を示しましたけど、ユニバーサルのエグゼキュティブVP兼HD-DVD推進グループ共同プレジデントのKen Graffe氏もギズモにこれと全く同じことを言ってました。

    「東芝が終わったと言えば、終わるんだ」

    僕らの印象、ですか? 東芝ももう覚悟してるんではないかと思いますね…。でもこの話のクレージーなところは、「たった数週間前までは正反対の結果になる可能性もあった」ことでしょうね。

    長いので続きは以下で。

    東芝のデジタルAVマーケティング部門VPのJodi Sally女史はギズモの取材に対し、「私たちはまだHD DVDにはそれなりの価値があると思ってますが、市場の動向をじっくり眺めつつ売れ行きがどうなるか、結果を待とうと思います」と話してました。まあ、「それなりの価値」というのは、例えば3年転がしてないボーリング玉とか、埃かぶったレーザーディスクのコレクションがもったいなくて捨てられないような時に口にする言い訳だと思いますけどね…。

    ともあれHD-DVDとユニバーサルに関しては取材でかなり正確に把握できたと思ってる僕らからすると、「ユニバーサルは契約が期限切れになったから乗り換える準備ができたんだ」という噂は幾つかの理由で間違ってると言わざるをえません。

    「誰もうちには話してくれなかった。今みなさんが見ているようなことはすべてこれまで一度も具体化していなかったものですよ」とユニバーサルのGraffeo氏は言ってましたけど、それ以外にも理由はあります。

    業界内部の複数の筋から得た情報によれば、ユニバーサルHD DVDとの契約2009年まで有効なんだそうな。契約が無効になるのは、そのフォーマットの先行きが無いと宣言された場合のみ。Graffeo氏は、HD-DVDの死を宣言する東芝のことを何度も非難してたので、そこから判断しても確かな情報という気がします。

    「パラマウントが(HD-DVDの)船から飛び降りた今、HD-DVDはどう対応するんでしょう?」という質問に対し、氏はこう答えています。「それは東芝に取材すべき話でしょう」。 つまりみんな自分からではなく他のスタジオが降りるのを待ってるだけ、という姿勢です。

    しかし数週間前ワーナーが寝返る前までは結果は180度違ってる可能性もあった。情報筋から得た話では、ワーナーとBlu-rayの間の契約が成立する数日前にフォックス社はマイクロソフト社エンターテイメント部門の長であるRobbie Bach氏に電話で「Blu-rayではなくHD-DVD独占で行く」と確認していたそうです。「本当にフォックスがHD-DVDに動いていたらワーナーも追随していただろう」とその筋は言うんですね。

    ところがフォックスは土壇場になって、Blu-rayのまま行くことに決めてしまった。で、結果としてワーナーもこれに追随。東芝にとってはまさにこれは最後11時間の、寝耳に水の出来事だったようです。

    Graffeo氏は僕らに、そのニュースが入った時、HD-DVDのエグゼキュティブはみんなベガス行きの機内で、よもやそんなことが起こってるとは知る由もなかったのだ、と教えてくれました。

    裏で何が起こったのか?

    「Pittsburgh Post-Gazette」紙Don Lindich記者は、フォックスソニーから1億2000万ドル手渡されたのだと書いてます。ワーナーは青(Blu-ray)のペンキ塗りに貰ったお金が大体5億ドル、と。

    『ビジネスウィーク』誌が伝えたワーナー受け取り額は「推定4億ドル弱」。東芝が用意した1億ドルなど足元にも及ばなかった、といいます。

    ギズモからの電話取材に対し、ワーナーのKevin Tsujihara氏は「競り落としが決定要因ではないわい」と否定してましたね。 僕らも最後は実弾戦だったという話は本当だと睨んでるんですが、このTsujiharu氏の言い分も厳密に言うと本音だと思います。

    どの映画スタジオも終戦を望んでいた。― みんなBetmax 2買って2年後にHD版買わされるんじゃ堪ったもんじゃないですから買い控えが起こって、HDディスクにも普通のDVDにも売上げ低下の影響が出てたし。

    今の土台(DVD)と未来のプラットフォーム(HD)の狭間で損失を出す企業の中には、ビデオ業界最大手のワーナー・ホームビデオ(市場シェア19.7%)も入っています。ワーナーはとにかくどっちかに転んでフォーマット戦争を終わらせたら、それでよかったんです。フォックスも。

    タイミングはどうか。

    別の筋が教えてくれた話によると、ワーナーは実は「CESで発表」を予定していたそうです。それを「CES直前」にしてしまうことで、東芝とHD-DVDは事実上、報道発表キャンセルを余儀なくされた。そしてゲイツ基調講演もHD-DVDの話は20分(?)カット、マイクロソフトが全社挙げて支援するという発表も幻と消えた、言うんですね。

    つまり直前にワーナーが寝返ったことでCESでHD-DVDはすっかり出番をなくしてしまった。微妙に発表時期を早めることで得したのはBlu-ray陣営です。

    このドタキャンは堪えます。でもじゃあ、CESの間ずっと笑顔を振りまいて最後に平手打ちなら良かったのかというと、それも…厳しいものが。どっちみち東芝の威信に傷がつくことには変わりないことでしょう。

    あと、実弾戦の内情はもっとドロドロしてそうです。フォーマット戦争は数十億ドル賭けた戦い。業界内部の人からみたら、一般に言われてる何億ドルという程度のはした金(陣営とスタジオによって額はマチマチです)で寝返るなんてこと、まず考えられないそうな。本当は何があったんでしょうね?

    ギズモとしての公式見解:

    ボールは今、東芝サイドにある。ユニバーサルとパラマウント、ドリームワークス・アニメーションの各社は東芝がゲームを投げるまで、そっちのコートに残る構えです。東芝は「(陣営内の)プレーヤーを取り巻く市場が厳しくなったら」、その時は撤退すると話してます。 一番最近の値下げで売れ行きが上がるとすれば、それが苦い終わりの前の最後の花になるんじゃないでしょうか。

    ギズモの本音:

    Blu-ray上層部はもう100%勝利を確信してますね。公にも、取材に対しても。二股のサムスンは「ハリウッド戦線でHD-DVDは背骨を折られてしまった」とし、HD-DVDは個人利用の録画コンテンツ向けに格下げになるだろうと話してます。

    IDCのアナリストは「東芝はサムスンやLGのような両フォーマットのプレーヤーに乗って生き残るかもしれない」との予想

    たった数週間前まではどちらに転んでもおかしくなかったフォーマット戦争。

    しかし、HD-DVDももはや、これまでのようです。

    [追] 報道内容に間違いがあったらスタジオのみなさん、消費者にも分かるようにオンレコで訂正よろしくお願いします!-Mark Wilson

    MATT BUCHANAN(原文/訳:satomi)

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