「Adobe Acrobat」および「Adobe Reader」の最新版が11月15日にリリースされる。PDFを作成するための安価なツールはほかにもあるが、AdobeはAcrobatによってどのようなPDFの使い方を提案しようとしているのか。マーケティング担当ディレクターを務めるマーク・グリーリ氏(写真)に、Adobe Acrobat Xに込めた思いを聞いた。
「Adobe Acrobat X(アドビ・アクロバット・テン)」が11月15日に発売される。
Acrobat Xの開発にあたり時間をかけたのが、ユーザーインタフェース(UI)の改良だ。Acrobatには便利な機能がたくさんあるのに、使われていないものがたくさんある。それを調べるために、(許可を得た上で)ユーザーの行動をトラッキングする機能を「Acrobat 9」に追加した。それによってユーザーが「どういう機能を」「どういう順番で」使っているのかが、はじめて明らかになった。
例えば、複数の異なる機能が一緒に使われる場合が多いことが分かった。そこでAcrobat Xでは、機能をグループ化して使えるようにした。同じグループ内にある機能であれば、少ない操作で仕事を進められる。また、「パネル」と呼ぶ新しいUIを追加した。様々な機能を効率的にアクセスできるようにしたことで、これまで使われていなかった機能がもっと使ってもらえるようになると期待している。実際、Acrobat Xのテスト版を使ったユーザーからは「Acrobatでこんなことができるとは知らなかった」という声が多く寄せられている。
そもそもAcrobatは使うのが難しいというユーザーも多い。特にあまり頻繁にAcrobatを使わないユーザーには、その操作性が複雑に感じられていたと思う。社内でPDFファイルに「セキュリティを施せ」「注釈を付けよ」と指示されても、やり方が分からず、詳しい人にいちいち聞きに行ったり、使い方を習得するためのトレーニングを受けたりしなければならなかった。
そうした課題を解消するために、Acrobat Xでは「Action Wizard」と呼ぶ機能を追加した。あらかじめタスクを登録しておけば、ユーザーは何回かのクリック操作をするだけで、必要な処理を行えるようになる。トレーニングを受けなくても、機能を使いこなせるようになるわけだ。
「Adobe Dynamic PDF」というコンセプトを打ち出している。これはどういうものか。
PDFは紙の文書を単にデジタル化するものだと考えている人たちが多いと思う。だが、もっとほかにできることがたくさんある。Adobe Dynamic PDFは、それを知ってもらうためのコンセプトだ。PDFには、マルチメディアデータを入れたり、注釈を入れたり、データのフォームとして使ったりすることができる。そのような機能を駆使して、動的なものとしてPDFを使っていくことで、ビジネスの成果を向上させられるというメッセージを込めている。
例えば、HASSELというデザイン会社がオーストラリアにある。そこでは図面のデータをPDF形式で保存して皆で共有している。単にファイルを閲覧するだけでなく、レビューや承認作業にもPDFが使われている。それによって、HASSELはいろんなメリットを享受している。
まず、高価な紙の図面を起こさなくてもよくなり、コストを削減できた。また、生産性も飛躍的に向上した。デザインまたはそこに施された変更をリアルタイムで皆が共有できるし、それが「いつ承認されたのか」「誰が承認したのか」も分かるからだ。図面ができてから製品が市場に出るまでの時間を大幅に短縮できたのだ。
もちろん図面のデータに限らない。PDFにはWordやExcelをはじめ様々なデータを含めることができる。それを活用すれば、入札や顧客とのコミュニケーションにも使うことができる。そういう使い方をしている企業が、実はたくさんある。
もちろんこれらは、(前バージョンの)Acrobat 9を使った事例だ。Acrobat Xでは、前述したように使い勝手が向上するため、より多くの顧客に同様のメリットを享受してもらえるようになると思う。
今やクラウド抜きのソフトウエアはあり得ない。クラウドに向けたAcrobatのアプローチは。
Acrobat 9に併せて、「Acrobat.com」をオープンした。クラウド上でファイルを共有したり、共同作業を行ったりできるサービスだ。ワールドワイドで1300万を超える登録がある。ユーザーの規模は様々で、大企業から中小企業、個人ユーザーまで使われている。Acrobat.comも今回、機能強化する。大容量ファイルを送信できる「SendNow」やPDFを作れる「Create PDF」などのサービスを追加する。
ただ、クラウド上でのドキュメントエクスチェンジ(文書交換)の市場はまだ成熟していない。クラウドベースで文書交換するという使い方をしているのは、いわゆるアーリーアダプターだ。我々は、新しいサービスや機能を導入していくことで、市場の成熟化を目指していく。