冬の災害は「低体温症」に注意 マフラー、カイロ、ぬれたら着替えて

関謙次
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 大地震のケース別の被害想定で、被害が最も大きくなるのは「冬の深夜」とされています。冬は体が冷えやすく、低体温症のリスクが高まるのが一因です。専門家に低体温症が起きるメカニズムと対策を聞きました。日常的に使うものでも「備え」ができるといいます。

 昨年12月に内閣府が公表した日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定では、「寒さ」が注目された。

 冬の深夜に発生した場合、津波から免れたものの体温の低下が原因で死亡するリスクのある「低体温症要対処者」が、日本海溝地震で最大4万2千人、千島海溝地震で同2万2千人出ると試算したからだ。

 建物倒壊や津波だけでなく「寒さ」も命を脅かすことが分かり、発生が予想される北海道から東北地方の沿岸自治体が毛布などの備蓄品を購入する動きにつながった。

 東海地方も南海トラフ地震の危険性が指摘されている。被害が最大になると想定されているのは、やはり冬の深夜だ。

専門家「寒冷地でない地域も危険」

 愛知県立大看護学部の清水宣明教授(危機管理学)は、「低体温症の危険は、寒い地域だけに限りません。むしろ寒冷地の人は寒さに慣れているので、そうでない地域の方が対策が十分でなく、災害時は危険」と話す。

 どのように備えればいいのか。

 大災害で電気やガスが止まってしまった場合、清水さんは「在宅避難」を勧める。自宅には生活に必要な様々なものがあるからだ。避難所へは、家が壊れたり浸水したりした場合に行くべきだという。

 清水さんによると、家の中で衣類にくるまっていれば、命を落とすことはまずない。大切なのは体温を逃さないこと。顔や首筋にタオルやマフラーを巻き、手は手袋や軍手、足は靴下やタイツで覆う。「耳も冷たくならないように耳当てをしてください」

 衣類以外の必需品は、使い捨てカイロ。一つずつ両手で持っていると体が温められ、かなり楽になるという。また、レトルト食品に貼り付けて懐に入れ、体と食品を同時に温める使い方もできるという。

カセットコンロ、お菓子の備蓄を

 お湯をわかすための熱源もあると便利だ。清水さんのお勧めはカセットコンロ。米やパスタ、ラーメンなどをつくることができる。アルコールランプ構造の「アルポット」という製品もある。「急に使うと失敗するので、使い慣れておくことです」

 低体温症を防ぐための非常食について、清水さんは「おなかが減っても簡単には死にませんが、ためている脂肪などが燃え始めるまでに体が冷えてしまうので、糖を取り込んで燃やす必要がある」と話す。あめやチョコレート、ハイカロリーなお菓子などを普段から多めに買っておけば備蓄になる。

 冬の夜に避難訓練をしておくと「全然違う」という。「暖房を切った部屋からスタートし、一時避難する場所まで歩いてみる。1~2時間過ごしてみて、どうやって暖を取るか考えたり、食事を作ってみたり。うまくいかなかったことを知っておくことが大事です」

 清水さんは保育園の避難対策を主に研究している。「実際に災害が起きると、子どもができないことは大人もできない。難しく考えず、手持ちのもので工夫し、寒くないようにすることが基本です」

        ◇

体や衣服がぬれると危険

 医学博士でもある清水教授に、低体温症のメカニズムを聞いた。

 低体温症は、体温が平熱をわずか1度ほど下回り、35度を切った状態のことです。心臓を動かしたり体を発熱させたりする酵素が働かなくなり、頭も体も正常に動かなくなります。人は体温が35度に近づくと筋肉を震わせて熱をつくろうとします。33度を切ると一般の人では救命できません。33~35度は体にとって死の世界です。

 危険なのは、体や衣服がぬれることです。東日本大震災で津波による溺死(できし)とされた人も、かなりの人が低体温症だったと言われています。夏でも扇風機に当たったまま寝ると、体の熱が奪われ死亡する可能性があります。

 災害対策では体を冷やさないことが第一です。食べなくてもすぐには死にませんが、冷えると短時間で死に至ります。まずは水にぬれないようにし、ぬれたら必ず着替える。すぐに着替えられない状況はまずいと考えてください。子どもや高齢者は冷えやすいので、より注意が必要です。(関謙次)

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